「愛犬と一緒にあの山の頂から、最高の景色を眺めたい…!」
30代後半の私、美月も、愛犬のゴールデンレトリバー、レオとのそんな夢を抱いていました。SNSで見る、楽しそうに山を駆け上がる犬たちの写真に憧れ、レオも体力には自信があったので、きっと大丈夫だろうと安易に考えていたんです。しかし、初めての犬連れ登山で、私は凍りつくような視線と、心の奥底に突き刺さるような後悔を味わうことになります。
「見えないマナーの壁」にぶつかった初めての山
あの日の山道での出来事は、今でも鮮明に思い出せます。
「なんで私だけこんな目に…」「せっかくのレオとの楽しい時間が、どうしてこんなに気まずい空気になっちゃうんだろう…」
一般的な「糞は持ち帰る」「リードをつける」というマナーは知っていましたが、それだけでは足りなかったのです。山という特殊な環境での「暗黙のルール」や「周囲への配慮」が、私には全く見えていませんでした。
すれ違う登山者からの冷たい視線、レオが興奮して吠えてしまった時の「チッ」という舌打ち。そのたびに、私の心は深くえぐられました。
「こんなに素敵な山なのに、私のせいで台無しにしてしまっている…?」
そんな時、偶然再会したのが、昔からの友人で、今はドッグトレーナー兼登山ガイドとして活躍している美咲さんでした。彼女は私の沈んだ表情を見て、すぐに異変に気づいてくれました。
失敗から学んだ、愛犬との「共生」の道
美咲さんに相談すると、私の話を聞きながら、彼女は静かに言いました。「美月、それはね、犬連れ登山ならではの『見えないマナーの壁』にぶつかっただけだよ。多くの人が同じ経験をするんだ」
その言葉に、私はどれだけ救われたことか。
美咲さんは、私が見落としていた多くのポイントを教えてくれました。
「リードはただつければいいわけじゃない。状況に応じて長さや持ち方を変える必要があるし、糞の処理も、ただ袋に入れるだけじゃ不十分なこともある。それに、犬の興奮をどうコントロールするかも、登山では特に重要なんだよ」
私は美咲さんのアドバイスを一つずつ実践していきました。
まず、リードの長さを2メートル以内に徹底し、他の登山者が近づいてきたら、すぐにレオを体に引き寄せて座らせる練習をしました。これが驚くほど効果的で、レオも次第に落ち着いてすれ違えるようになったのです。
糞の処理についても、美咲さんは「固形物は持ち帰るのが基本だけど、もし液体の処理が難しい場合は、土に埋める深さや場所にも配慮が必要だよ。そして、おしっこは水で流すか、携帯用の消臭スプレーを使うといい」と教えてくれました。私は携帯用シャワーボトルと消臭スプレーを常備するようになりました。
さらに、美咲さんは「犬の生理的な欲求だけでなく、他の登山者の心理も理解することが大切。犬が苦手な人、アレルギーの人、野生動物を観察したい人…色々な人が山に来ているからね」と、共生意識の重要性を説いてくれました。
その言葉を聞いて、私はハッとしました。これまでの私は、レオと自分のことばかり考えていたのかもしれない。環境省のガイドラインにも通じるその考え方は、まさに目から鱗でした。
美咲さんとの出会いを境に、私の犬連れ登山は劇的に変わりました。
ドッグトレーナー兼登山ガイドが語る「犬連れ登山の真髄」
「美月、犬連れ登山って、実は『犬と人間』そして『自然』との三位一体のハーモニーなんだよ」と美咲さんは笑顔で教えてくれました。
「多くの人が見落としがちなのは、山での『犬の居場所』の作り方。例えば、休憩中、犬をどこに繋ぐか、他の人が通る導線を塞がないか、日陰になっているか、岩場や斜面で危険はないか…これら全てに配慮が必要なんだ」
私は「確かに、ただベンチの横に繋いでおけばいいと思っていました…」と反省しました。
「あとは、犬の『声』だね。興奮して吠えるのは仕方ない部分もあるけど、それが長く続くと、静かに山を楽しみたい人にとっては大きなストレスになる。だから、吠え始めたらすぐに落ち着かせる練習や、そもそも興奮しにくい時間帯やルートを選ぶ工夫も必要だよ」
美咲さんは、さらに具体的なアドバイスを続けてくれました。
「特に重要なのは、山に入る前の準備。犬の健康状態、爪の手入れ、肉球の保護、そして何よりも『リードワークの徹底』と『呼び戻し』の訓練は必須。もしもの時に犬が逸れてしまわないように、絶対に目を離さないこと。そして、野生動物との接触は絶対に避けるべきだね。犬を自然の生態系に持ち込む責任を忘れてはいけないよ」
彼女の言葉は、まるで霧が晴れるように、私の心に深く響きました。
愛犬との山旅を最高にする5つの鉄則
美咲さんのアドバイスを基に、私が実践し、効果を実感した犬連れ登山マナーの具体的なステップをご紹介します。
1. リードは「短く、確実に」が基本
- 2m以内のリードを常に使用し、状況に応じて手元で短く持ちます。
- 他の登山者や犬とすれ違う際は、必ず犬を体に引き寄せ、座らせて待機させましょう。
- 特に狭い道や視界の悪い場所では、リードをさらに短く持ち、犬の動きを完全にコントロールします。
2. 糞尿処理は「跡形もなく」が鉄則
- 固形物は必ず持ち帰りましょう。密閉できる袋を複数枚用意し、二重三重にして臭い漏れを防ぎます。
- 尿は、携帯用シャワーボトルで水を流すか、携帯用消臭スプレーを使用し、痕跡を残さないよう心がけます。
- 万が一、土に埋める必要がある場合は、環境省のガイドラインに従い、人通りのない場所で深さ15cm以上の穴を掘り、微生物による分解を促すようにします。(ただし、持ち帰りが最優先です。)
3. 「声」のコントロールと「距離」の確保
- 犬が興奮して吠え始めたら、すぐに「待て」「伏せ」などの指示で落ち着かせ、吠えが収まるまでその場を動かないようにします。
- 他の登山者や犬との距離を十分に保ち、犬が苦手な方には積極的に道を譲りましょう。
- 休憩場所では、他の利用者の邪魔にならない、静かで目立たない場所を選びます。
4. 犬の体調管理と装備の徹底
- 登山前に獣医さんに相談し、犬の健康状態をチェックしましょう。特に高齢犬や子犬、持病のある犬は要注意です。
- 肉球保護のための犬用ブーツや、万が一の脱走に備えたダブルリード、十分な水と非常食、応急処置キットは必須です。
- 暑い時期は熱中症対策、寒い時期は防寒対策を怠らないようにしましょう。
5. 野生動物への配慮
- 犬が野生動物を追いかけたり、威嚇したりしないよう、常にリードをつけ、目を離さないようにします。
- 野生動物の生息地や繁殖期には、特に注意を払い、必要であればルート変更も検討します。
以前の私と、今の私。犬連れ登山のビフォーアフター
| 項目 | 以前の私(失敗談) | 美咲さんのアドバイス後(成功談) |
|---|---|---|
| リードの長さ | 長め(3m以上)で自由にさせていた | 2m以内を徹底し、すれ違い時は短く持つ |
| 糞尿処理 | 固形物のみ持ち帰り、尿はそのまま | 固形物は密閉して持ち帰り、尿は水で流すか消臭スプレーを使用 |
| 他の登山者 | 意識はするが、犬の行動を優先しがち | 犬が苦手な人には積極的に道を譲り、犬を落ち着かせて待機 |
| 犬の体調 | 問題ないだろうと楽観視 | 獣医チェック、肉球保護、水分補給を徹底 |
| 心の状態 | 不安、焦り、罪悪感、後悔 | 自信、安心感、周囲への感謝、愛犬との一体感 |
| 山の楽しみ方 | レオとの時間だけを重視 | レオ、私、他の登山者、自然、全ての調和を意識 |
あなたの疑問を解消!犬連れ登山Q&A
Q1: リードの長さはどのくらいが適切ですか?
A1: 美咲さんによると、山では基本的に2メートル以内のリードが推奨されます。他の登山者や動物との接触を避けるため、状況に応じてさらに短く持ち、犬をコントロールできる状態を保つことが大切です。
Q2: 犬の糞尿処理で特に気をつけることはありますか?
A2: 固形物は必ず密閉して持ち帰ります。尿については、美咲さんは「携帯用シャワーボトルで水を流すか、携帯用消臭スプレーで処理するのがスマートだよ」と教えてくれました。痕跡を残さないことが、他の利用者への配慮につながります。
Q3: 犬が他の登山者に吠えてしまうのですが、どうすればいいですか?
A3: まずは「待て」「伏せ」などの指示で落ち着かせることが重要です。美咲さんは「犬が興奮する前に、人が先に状況を察知して犬をコントロールすることが大切」と助言してくれました。トレーニングを重ね、興奮しにくい環境や時間帯を選ぶ工夫も有効です。
Q4: 犬連れ登山で持っていくべき特別なものがあれば教えてください。
A4: 美咲さん曰く、犬用の水筒、非常食、応急処置キット、肉球保護のための犬用ブーツは必須とのこと。また、万が一に備えて、犬の名前と連絡先を記載した迷子札や、ダブルリードも安心材料になります。
Q5: どんな犬でも犬連れ登山は可能ですか?
A5: 犬種や年齢、性格によって向き不向きがあります。美咲さんは「事前に獣医さんに相談し、犬の健康状態をしっかり確認することが最優先。そして、基本的なしつけ(呼び戻し、待てなど)ができていることが大前提だよ」と強調していました。無理はさせず、愛犬のペースに合わせることが大切です。
愛犬との絆を深める、共生の登山道へ
愛犬との登山は、私たちにとってかけがえのない喜びと、深い絆を与えてくれる最高の体験です。しかし、その喜びを独り占めするのではなく、山を愛する全ての人、そしてそこに暮らす野生動物たちへの配慮があってこそ、本当の意味で豊かな時間となるでしょう。
かつての私のように、もしあなたが犬連れ登山に不安を感じているなら、それは決して一人ではありません。私も「見えないマナーの壁」にぶつかり、後悔の念に駆られた経験があります。しかし、一歩踏み出して学び、実践することで、愛犬との山歩きは、以前にも増して素晴らしいものに変わりました。
美咲さんの言葉を借りるなら、「犬連れ登山は、犬と人間、そして自然とのハーモニー」。この言葉を胸に、私たちはこれからも愛犬と共に、美しい山々を歩き続けるでしょう。
あなたと愛犬が、自信を持って、そして周りの全てに感謝しながら、最高の山時間を過ごせることを心から願っています。さあ、一歩踏み出して、愛犬との新たな冒険の扉を開いてみませんか?
この記事を書いた人
朝倉 美月(あさくら みづき)| 30代後半 | 愛犬との暮らしとアウトドアを楽しむwebライター
愛犬ゴールデンレトリバーのレオと暮らす中で、犬連れ登山に魅了される。当初はマナー不足で苦い経験もしたが、ドッグトレーナーの友人の助言を得て、周囲に配慮したスマートな犬連れ登山を実践中。愛犬との絆を深めながら、自然との共生を大切にするアウトドアライフを日々探求している。愛犬と安全に、そして楽しく山を歩くための情報発信に情熱を注ぐ。
