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ハイキングにファミチキは危険?山で獣を呼ぶリスク

都会の喧騒を離れ、清々しい空気と豊かな緑に包まれる日本の山々。家族とのハイキングは、私にとって何よりも大切な時間でした。特に、子供たちが楽しみにしていたのが、下山後に食べる「ご褒美」です。手軽で美味しいコンビニフーズ、特にファミチキは、その香ばしい匂いが食欲をそそり、子供たちも大喜びでした。しかし、その「ご褒美」が、まさか私と家族を恐怖の淵に突き落とすことになるとは、夢にも思っていませんでした。

あれは、数年前の秋のことです。紅葉が始まったばかりの奥多摩の山を、小学2年生の息子と幼稚園の娘、そして妻の4人で歩いていました。少し汗ばむ陽気で、山頂でのお弁当が待ち遠しかったのを覚えています。私のリュックには、妻が用意してくれたおにぎりやサンドイッチとは別に、サプライズで買っておいたファミチキが忍ばせてありました。子供たちの「パパ、ファミチキ食べたい!」という声が聞きたくて、下山後の楽しみにとっておいたのです。

山頂で景色を堪能し、お昼ご飯を済ませた私たちは、軽快な足取りで下山を始めました。しばらく歩いたところで、ふと、背後からガサガサという音が聞こえました。「小動物かな?」と軽く考えていましたが、その音は徐々に大きくなり、明らかに私たちを追っているような気配がしました。振り返ると、そこには体長1メートルほどの大きなイノシシが、鼻をヒクヒクさせながらこちらに向かってくるではありませんか。

「嘘だろ…」私は全身の血の気が引くのを感じました。子供たちは私の背中に隠れて震え、妻は顔面蒼白です。イノシシは、私たちから数メートルの距離まで近づいてきました。その視線は、明らかに私のリュックに向けられています。その時、私の頭をよぎったのは、リュックの中のファミチキでした。あの、揚げたての香ばしい匂いが、この獣を引き寄せてしまったのだと、直感的に理解しました。心臓がバクバクと音を立て、汗が止まりません。「なぜ、こんなことに…」「子供たちに何かあったらどうしよう…」「自分の無知が、家族を危険に晒した…」後悔と絶望が津波のように押し寄せ、私はただ立ち尽くすことしかできませんでした。

幸いにも、近くを通りかかったベテラン登山者グループが大きな声を出してくれたおかげで、イノシシは森の奥へと去っていきました。その時の安堵感と、同時に襲いかかった羞恥心は、今でも忘れることができません。子供たちの「パパ、怖かったね…」という言葉が、まるで刃物のように私の胸に突き刺さりました。もし、あの時、登山者たちが現れなかったら…想像するだけで、ぞっとします。この一件以来、私のハイキングに対する意識は大きく変わりました。

友人のベテランハイカーにこの話をすると、「そりゃ、危なかったな。日本の山は、食べ物の匂いに特に気をつけないといけないんだよ」と諭されました。彼は続けました。「特にクマやイノシシは嗅覚が非常に優れていて、人間の想像を遥かに超える距離から匂いを察知する。ファミチキみたいな揚げ物や肉系の匂いは、彼らにとっては最高の獲物のサインなんだ。一度人間の食べ物の味を覚えると、人里に降りてくるリスクも高まるし、何より人間を怖がらなくなる。それは動物にとっても人間にとっても不幸なことなんだ」

この話を聞き、私は自分の行動がいかに無責任だったかを痛感しました。ただ美味しいから、手軽だからという理由で、日本の山でファミチキのような匂いの強い食べ物を持ち込むことが、どれほどのリスクを伴うか、全く理解していなかったのです。地域の自然保護団体が発行しているパンフレットを読み漁り、山での食べ物に関するガイドラインを徹底的に調べました。そこには、「匂いの強い食品は避ける」「食べ物はジップロックなどの密閉容器に複数重で入れる」「食べ残しやゴミは絶対に持ち帰る」といった、具体的な注意喚起が記されていました。私の知らなかった「常識」が、そこにはたくさんありました。

この苦い経験を経て、私はハイキングでの食べ物に対する考え方を根本から見直しました。まず、匂いの強い食べ物は極力避けるようになりました。もし持っていくとしても、ジップロックに二重三重に包み、さらに密閉性の高いタッパーに入れるなど、徹底した匂い対策を講じています。また、休憩中に食べる際も、周囲に獣の気配がないか十分に注意し、食べ残しは一切出さないよう細心の注意を払っています。万が一、獣と遭遇した時のための熊鈴や、万が一のためのホイッスルも必ず携帯するようになりました。

以前の私は、ただ山を歩くだけで満足していました。しかし、今は違います。山は、私たち人間だけのものではなく、そこに生きる動物たちと共存する場所であるという意識が芽生えました。私たちのちょっとした不注意が、彼らの生態系を乱し、ひいては私たち自身の安全を脅かすことになる。そう気づいてからは、ハイキングの準備一つ一つに、より責任感を持つようになりました。

ハイキングにファミチキは危険か?答えは「はい」です。日本の豊かな自然と共存するためには、私たちの意識と行動が不可欠です。あの時の恐怖体験は、二度と味わいたくありません。そして何より、私の大切な家族を、そして山の生き物たちを、無用な危険に晒したくない。もしあなたが、私と同じように気軽に匂いの強い食べ物を山に持っていこうと考えているなら、今一度立ち止まって考えてみてください。その一歩が、あなたと大切な人の安全を守り、山の自然を守ることに繋がるはずです。

【この体験から学んだこと】