「まただ…」テレビの画面に映る、捨てられた子犬の姿。フィクションだと頭では理解しているのに、胸が締め付けられ、呼吸が浅くなる。気づけば、私の頬には熱い涙が伝わっていました。40代の愛犬家である私も、あなたと同じように、犬が活躍する映画や、犬が可哀想な目に遭うニュースが一切見られなくなってしまった一人です。
映画はフィクションだと分かっていても、まるで自分の愛犬がそこにいるかのように感情移入してしまい、涙が止まらなくなる。そして、「もしこれが現実に起こったら…」と考えると、その苦しさに耐えられなくなるんです。「なぜ私だけこんなに苦しいんだろう…」「こんなはずじゃなかった…」と、何度も自問自答してきました。そのたびに、私はテレビを消し、スマホを閉じ、情報から逃げるように目を背けてきました。
なぜ、犬を愛する人は「涙腺崩壊」してしまうのか?
私たちが犬の悲しい物語にこれほどまでに感情を揺さぶられるのは、単に感受性が豊かだからだけではありません。そこには、犬と人間の間に築かれた深い絆と、共感という名の特別な回路が存在するからです。
ある日、私は心理カウンセラーの友人、田中美咲にこの悩みを打ち明けました。カフェでコーヒーを飲みながら、私は田中さんに言いました。「ねえ、田中さん。私ね、犬の映画とかニュースとか、もう全然見られなくなっちゃったの。フィクションって分かってるのに、涙が止まらなくて、本当に辛くて…」。
田中さんは私の話にじっと耳を傾け、静かに言いました。「それはね、恵美さんの心が優しい証拠だよ。犬を家族のように大切に思っているからこそ、彼らの痛みや喜びを自分のことのように感じてしまうんだ。脳科学的には、他者の感情を自分のことのように感じる『ミラーニューロン』の働きが活発なんだろうね」。
田中さんの言葉は、私にとって大きな救いでした。自分の感情が「おかしい」わけではないと知ったことで、少しだけ心が軽くなったのです。私たちは犬を単なるペットではなく、無垢で純粋な存在として、家族の一員、あるいはそれ以上の存在として認識しています。だからこそ、彼らが苦しむ姿を想像すること自体が、私たちにとって耐えがたい苦痛となるのです。
「でもね、恵美さん。その豊かな共感能力は素晴らしい宝物だけど、時に自分自身を傷つけてしまうこともあるんだよ」と田中さんは続けました。「情報から完全に目を背けるのは、一時的な自己防衛にはなるけれど、それでは大切な情報を見逃したり、周りの人との共通の話題を楽しめなくなったりするかもしれない。その孤独感が、また別の苦しみを生むこともあるんだ」。
私が「もう見られない」と絶望したあの日の失敗体験
忘れもしません。数年前、ある犬の映画が公開され、周囲では感動の嵐だと話題になっていました。私も見たい気持ちはあったのですが、過去の経験から「きっと泣きすぎてしまう」と避けていました。しかし、職場の同僚や友人たちが「本当にいい映画だったよ」「絶対見るべき!」と口々に言うのを聞いて、「私だけ見ないのはもったいないかな…」という気持ちが芽生えたんです。心のどこかで、「今度こそ大丈夫かもしれない」という淡い期待もありました。
意を決して、私は一人で映画館へ足を運びました。暗闇の中、スクリーンに映し出される犬たちの愛らしい姿に、最初は心が温かくなりました。「これなら大丈夫かも」と安堵したのも束の間、物語が悲しい展開へと進むにつれて、私の心はみるみるうちに凍り付いていきました。主人公の犬が困難に立ち向かい、傷つき、孤独に耐えるシーンでは、涙がとめどなく溢れ、嗚咽を抑えるのがやっとでした。
「もうダメかもしれない…」「こんなはずじゃなかった…」
映画が終わった後も、私はしばらく席を立つことができませんでした。頭痛と吐き気に襲われ、全身から力が抜けていくようでした。映画館を出ると、外の光がやけに眩しく感じられ、私は家に帰ってからも数日間、その映画の情景が頭から離れず、深い悲しみに沈んでいました。愛犬を抱きしめながら、「この子に何かあったら…」という不安が募り、眠れない夜を過ごしたこともあります。この一件で、私は完全に犬の映画を避けるようになりました。「もう二度と、あんな思いはしたくない」と強く誓ったのです。
心理カウンセラーの友人が教えてくれた「心の安全弁」
私の失敗談を聞いた田中さんは、深く頷きながら言いました。「それは、恵美さんが『感情のダム』を一気に決壊させてしまったような状態だね。ダムの水位を少しずつ調整して、決壊させない方法を学ぶことが大切なんだ」。
田中さんが教えてくれたのは、感情との向き合い方を変えるための具体的なステップでした。
1. 事前の情報収集で「心の準備」をする
「ねえ、恵美さん。映画やドラマを見る前に、あらすじやレビューを徹底的に調べてみるのはどうかな?ネタバレサイトも活用して、犬が悲しい目に遭うシーンがあるか、ハッピーエンドで終わるのか、事前に把握しておくんだ。そうすれば、心の準備ができるし、あまりにも辛そうな作品は避けることもできるから」。
2. 感情の「一時停止ボタン」を持つ
「もし、鑑賞中に感情が高まって苦しくなったら、無理に最後まで見続けようとしないで。一時停止したり、目を閉じたりして、深呼吸をしてみて。そして、『これはフィクションだ』『私の愛犬は今、隣で幸せに寝ている』と、現実世界に意識を戻す練習をすることが大事だよ。休憩を挟むことで、感情の波を落ち着かせることができるから」。
3. 共感疲労を理解し、自分を労わる
「犬への深い共感は、時に『共感疲労』を引き起こすことがあるんだ。これは、他者の苦しみに寄り添いすぎて、自分自身が心身ともに疲弊してしまう状態のこと。だから、映画を見た後に疲労感を感じたら、それは当然の反応だと受け止めて、自分を責めないこと。愛犬と触れ合ったり、好きな音楽を聴いたりして、積極的に心を癒す時間を作ってあげてね」。
4. 信頼できる人と感情を共有する
「一人で抱え込まずに、私みたいに話せる人がいるなら、その感情を言葉にして共有するのもいいよ。誰かに聞いてもらうだけでも、心が軽くなることは多いから。もし、周りに話せる人がいなければ、無理せず専門家を頼る選択肢もあるんだよ」。
田中さんのアドバイスは、まさに私にとって「心の安全弁」の作り方を教えてくれるものでした。それ以来、私は映画を見る前に必ずあらすじを確認し、少しでも不安があれば無理をしないようにしています。そして、感情が揺さぶられたら一時停止し、愛犬の寝顔を見て深呼吸をするようにしました。すると、以前のように絶望感に苛まれることなく、物語と向き合えるようになってきたのです。
あなたの「見れない」を「見られる」に変える具体的ステップ
犬への深い愛情は、あなたの素晴らしい個性です。その感情を無理に抑え込むのではなく、上手に付き合うことで、あなたはもっと豊かな世界と繋がることができます。ここでは、私が実践してきた具体的なステップをご紹介します。
1. 作品選びは慎重に!事前に「ネタバレ」を恐れない
- 映画やドラマを選ぶ際は、レビューサイトやSNSで「犬」「悲しい」「結末」などのキーワードで検索してみましょう。
- ネタバレを恐れず、ストーリーの展開、特に犬が関わるシーンの内容を把握することが重要です。
- 明らかに悲しい結末や、心が痛む描写が多い作品は、潔く避ける勇気も必要です。
2. 鑑賞中は「心の距離」を意識する
- 映画を見ている間も、「これはフィクションだ」と心の中で唱え、物語と自分との間に意識的な距離を置く練習をしましょう。
- 感情が高ぶってきたら、一時停止して席を立ち、別の部屋に行ったり、愛犬の頭を撫でたりして、現実に戻る時間を設けてください。
3. 鑑賞後は「感情のデトックス」を
- 見終わった後は、感動や悲しみを抱え込まずに、愛犬を抱きしめたり、散歩に出かけたりして、ポジティブな感情で心を上書きしましょう。
- 信頼できる友人や家族に、映画の感想や感じたことを話すのも効果的です。言葉にすることで、感情が整理され、心が軽くなります。
4. それでも辛い時は「専門家」という選択肢も
- もし、これらの方法を試しても感情のコントロールが難しく、日常生活に支障が出るようであれば、無理せず心理カウンセラーなどの専門家に相談することを検討してみてください。
- あなたの感情は、決して異常なものではありません。専門家は、その豊かな感受性と上手に付き合うための具体的なアドバイスやサポートを提供してくれます。
悲しい映画との向き合い方:Before & After
| 項目 | Before(見ない・避ける) | After(向き合う・コントロールする) |
|---|---|---|
| 感情の状態 | 突然の涙、胸の痛み、絶望感、自己嫌悪 | 感情の波を理解し、コントロールできる安心感 |
| 情報との関わり | 映画やニュースから完全に距離を置く、情報不足 | 事前情報で心の準備、無理なく鑑賞、情報収集の幅が広がる |
| 精神的影響 | 孤独感、罪悪感、不安の増大 | 自分を肯定し、共感能力をポジティブに捉えられる |
| 愛犬との関係 | 不安から過度に心配することもあった | より穏やかな気持ちで愛犬との時間を楽しめる |
| 社会との関わり | 共通の話題についていけない、孤立感 | 映画の感想を共有できる、共感する仲間と繋がれる |
FAQ:愛犬家の「見れない」に関するよくある質問
Q1: そもそも、無理して犬の悲しい映画を見る必要はあるのでしょうか?
A1: 無理して見る必要は全くありません。あなたの心が苦痛を感じるなら、それは自分を守るための大切なサインです。心理カウンセラーの田中美咲さんによると、「自己防衛は、健全な心の働きの一つ」だそうです。まずは自分を労わり、心の準備ができた時に、少しずつ向き合う選択肢を考えてみましょう。
Q2: 映画を見た後、感情が溢れて止まらない時はどうすれば良いですか?
A2: まずは安全な場所で、感情の赴くままに涙を流しましょう。そして、愛犬を抱きしめたり、温かい飲み物を飲んだりして、五感を落ち着かせることに集中してください。信頼できる人に話を聞いてもらうのも効果的です。感情は、外に出すことで整理されていきます。
Q3: 周りの人に「たかが映画なのに」と理解してもらえない時は?
A3: あなたの感情は、決して「たかが」ではありません。犬への深い愛情と共感能力ゆえの反応です。無理に理解を求めず、共感してくれる人との関係を大切にしましょう。もし話す機会があれば、犬があなたにとってどれほど大切な存在であるかを、落ち着いて伝えてみるのも良いかもしれません。
その涙は、あなたの深い愛の証だから。
犬の映画やニュースを見て涙が止まらなくなるのは、あなたの心が純粋で、深い愛情に満ちている証拠です。それは決して、弱いことでも、おかしいことでもありません。私自身も、心理カウンセラーの田中さんとの出会いを通して、この感情は「共感」という素晴らしい能力の裏返しだと気づくことができました。
情報から目を背けるのではなく、自分の感情と上手に付き合う「心の安全弁」を持つことで、あなたはもっと多くの感動や喜びを受け取れるようになります。愛犬との日常を心穏やかに過ごし、時には新しい映画体験にも挑戦できる、そんな未来がきっと待っています。
もし今、あなたが同じような苦しみを抱えているなら、一人で悩まないでください。あなたの深い愛は、きっとあなた自身をも守ってくれるはずです。そして、必要であれば、私のように信頼できる友人や専門家を頼ることを恐れないでください。あなたの心が、再び輝きを取り戻せるよう、心から応援しています。
この記事を書いた人
佐藤 恵美 | 40歳 | 愛犬家webライター
愛犬(トイプードル)との暮らしをこよなく愛するwebライター。かつては犬が可哀想な目に遭う映画やニュースに感情移入しすぎて見ることができず、日常生活にも影響が出ていた経験を持つ。心理カウンセラーの友人との出会いをきっかけに、感情との健全な向き合い方を学び、現在は愛犬との穏やかな生活を送りながら、同じ悩みを抱える愛犬家の心に寄り添う記事を執筆している。
