「こんなに愛しているのに、どうしてこんなことを思ってしまうんだろう…」。30代後半の会社員である私も、愛犬との生活で何度もそう自問自答してきました。
初めてワンコを迎えた日、私は夢にまで見た理想の毎日を思い描いていました。休日は一緒にドッグランへ行き、家では膝の上で眠り、どこへ行くにも一緒。キラキラした未来だけが広がっていると信じていたのです。しかし、現実は想像以上に厳しかった。早朝の散歩は雨の日も風の日も休めず、しつけは一向に進まず、体調を崩せば夜中に病院へ駆け込む日々。疲れ果てて、ふと「もう嫌だ」という感情が湧き上がった時、強烈な自己嫌悪と罪悪感に襲われました。
「こんな私は、飼い主失格なんじゃないか…」。この心の声が、私を深く深く追い詰めていったのです。世間が語る「理想の飼い主像」と、現実の自分のギャップに苦しみ、誰にも相談できず、孤独感に苛まれる日々でした。
ある雨の日の朝、いつものように愛犬のリードを握り、重い足取りで外に出た時でした。冷たい雨が顔に打ち付け、心まで凍りつくような感覚。「もう、何もかも放り出したい…」と、涙が止まらなくなってしまいました。その時、ふと連絡を取ったのが、長年の友人であり、ドッグトレーナーとして活躍している美咲さん(仮名)でした。彼女に正直な気持ちを打ち明けると、美咲さんは優しくこう言いました。「ねえ、それ、みんな通る道だよ。愛情があるからこそ、真剣に悩むんだよ。あなたは決して飼い主失格なんかじゃない」。
美咲さんの言葉は、凍りついていた私の心に温かい光を灯してくれました。彼女はさらに、私に必要な「魔法の言葉」を教えてくれたのです。
飼い主の「もう嫌だ」は愛情の裏返し。決して失格なんかじゃない
美咲さんは、まず「完璧な飼い主なんて存在しない」と断言しました。犬を心から愛しているからこそ、その子の幸せのために「もっと頑張らなきゃ」と自分を追い詰めてしまう。その結果、心身ともに疲弊し、「もう嫌だ」という感情が生まれるのは、むしろ愛情の証拠だと教えてくれました。
「無理に頑張り続けることだけが愛情じゃないよ。時にはプロの手を借りたり、自分自身の休息を優先することも、愛犬にとっての幸せに繋がるんだよ。疲れた飼い主のそばにいるより、元気で笑顔の飼い主のそばにいる方が、ワンコもきっと嬉しいはず」と美咲さんは言いました。私はその言葉に、心がふっと軽くなるのを感じました。自分を責める必要なんて、どこにもなかったのです。
完璧主義を手放し、プロの知恵とサポートを借りる勇気
美咲さんのアドバイスは、具体的でした。まず、私は完璧主義を手放すことから始めました。毎日決まった時間にドッグランに行けない日があっても、完璧なトレーニングができなくても、自分を許す練習です。そして、何より大きかったのは、「プロの力を借りる勇気」を持てたことです。
美咲さんの紹介で、週に一度、短時間だけ愛犬を預かってくれるペットシッターさんにお願いすることにしました。たった数時間でも、自分だけの時間を持てることで、心にゆとりが生まれました。また、しつけ教室の短期コースに通うことで、愛犬の行動原理を学び、無駄な叱り方を減らせたことも大きな変化でした。美咲さんは「プロは飼い主さんの味方だよ。一人で抱え込まず、頼っていいんだよ」と、何度も言ってくれました。
自分と愛犬のための「ちょうどいい」バランスを見つける方法
美咲さんから得た知恵と、それを実践する中で、私は自分と愛犬にとっての「ちょうどいい」バランスを見つけられるようになりました。以前は「義務」と感じていた散歩も、愛犬が楽しそうにしている姿を見るたびに、私自身の心が癒される時間へと変わっていきました。完璧でなくても、毎日少しずつ、愛犬と心を通わせる時間を大切にする。そして、自分が無理なく笑顔でいられる範囲で、できることを精一杯やる。それが私にとっての「最高の飼い主」の形だと気づいたのです。
もし今、「犬が大好きなのに、もう嫌だと思ってしまう…」と悩んでいるなら、あなたは一人ではありません。その感情は、深い愛情の裏返しです。自分を責めることをやめ、時にはプロの力を借りてみてください。きっと、愛犬との日々が、以前よりもっと輝き始めるはずです。大切なのは、自分を許し、助けを求める勇気を持つこと。そうすれば、愛犬との絆は、より一層深まっていくでしょう。
この記事を書いた人
山田 恵美子 | 30代後半 | ペットとの共生を考えるWebライター
愛犬との生活で「飼い主失格かも」と深く悩んだ経験を持つ。その経験から、同じように苦しむ飼い主さんの心が少しでも軽くなるような記事を執筆している。ドッグトレーナーの友人から得た知識と自身の体験を元に、実践的で心に寄り添う情報発信を心がけている。
