私は30代後半のwebライター、桜井結衣です。幼い頃から動物が大好きで、特に犬には目がありません。散歩中にすれ違う犬を見かけると、思わず「可愛いね」と声をかけ、瞳を合わせようとします。ふわふわの毛並み、つぶらな瞳、しっぽを振る姿…もう、たまらなく愛おしい。だけど、私のそんな「大好き」な気持ちとは裏腹に、犬が飼い主さんの後ろに隠れてしまったり、時には低い声で唸られてしまったりすることが、何度もありました。
そのたびに、私の心は深く深く沈み込みます。まるで、胸の奥をぎゅっと掴まれたような、息苦しい悲しみに襲われるのです。「私、何か変なことしてるのかな？」「私のオーラが、犬を怖がらせているの？」…そんな自己嫌悪の言葉が、頭の中をぐるぐると駆け巡りました。犬が大好きだからこそ、避けられることがこんなにも辛いなんて。このままでは、大好きな犬たちとの距離が縮まるどころか、どんどん離れていってしまうのではないかと、漠然とした不安に苛まれていました。
なぜ、あなたの「大好き」が犬に伝わらないのか？
「犬が大好き」という純粋な気持ち、それ自体は素晴らしいものです。しかし、その「大好き」の表現の仕方が、犬にとっては時に大きなプレッシャーになっているかもしれません。私自身もそうでした。犬を見かけると、興奮してしまい、前のめりになって近づいたり、高い声で話しかけたり…まるで、初めて会う子どもに、大人がいきなり抱きつき、頭をわしゃわしゃ撫でようとするようなものだったと、今ならわかります。子どもは怖がって親の後ろに隠れるでしょう？ 犬も同じなんです。彼らには彼らの「初対面のルール」があるのです。
一般的な「犬に優しく接する」というアドバイスは、あくまで人間の感覚に基づいたものです。私たちは犬の言葉を理解できません。だからこそ、良かれと思ってしている行動が、犬にとっては「不快」や「警戒」のサインとして受け取られているケースが少なくありません。例えば、目をじっと見つめる行為。人間同士なら親愛の証ですが、犬にとっては「威嚇」と受け取られかねません。また、頭の上から手を伸ばして撫でようとするのも、犬にとっては「上から押さえつけられる」という恐怖に繋がることがあるのです。
この問題について、私は長年の友人であるドッグトレーナーのアヤカに相談しました。彼女はいつも穏やかで、どんな犬ともすぐに打ち解ける不思議な魅力を持っています。私が「ねえアヤカ、私、犬に嫌われてるみたいで…」と切り出すと、アヤカは優しく微笑んで言いました。「結衣、それはね、嫌われているわけじゃないよ。ただ、犬の言葉と、人の言葉がちょっとすれ違ってるだけなんだ。犬には犬のコミュニケーションのルールがあるんだよ」その言葉に、私は少しだけ、救われたような気がしました。
私の失敗と、犬との「心の距離」を縮めた転機
あれは、去年の春のことでした。近所の公園で、ゴールデンレトリバーを散歩させている女性を見かけました。その犬は、まるで陽だまりのような優しい表情をしていて、私にとってまさに「理想の犬」。私は吸い寄せられるように近づき、「可愛いね、こんにちは！」と、満面の笑みで声をかけました。そして、少しでも仲良くなりたくて、かがんで手を差し出そうとした、その時です。
「グルルル…」
低い、震えるような唸り声が、公園の静寂に響き渡りました。犬は、私から目をそらし、飼い主さんの足元に身を寄せ、震えています。飼い主さんも、慌ててリードを短く持ち、私に「すみません、この子、ちょっと人見知りで…」と申し訳なさそうに言いました。私の頭の中は真っ白になり、足元から冷たいものが這い上がってくるような感覚に陥りました。
「まただ…また、私、失敗しちゃった…」
その日の帰り道、私の心は鉛のように重く、涙がこみ上げてきました。大好きな犬に嫌われたくない。むしろ、もっと心を通わせたい。それなのに、なぜ、いつも裏目に出てしまうのだろう。このままでは、犬に触れることさえ怖くなってしまうかもしれない。そんな絶望感と無力感が、私を支配しました。家に帰ってからも、その犬の怯えた顔が目に焼き付いて離れず、自責の念で胸が締め付けられるようでした。
数日後、私は意を決してアヤカに連絡を取り、カフェで会うことにしました。私は、例のゴールデンレトリバーの件を、詳細に話しました。アヤカは、私の話をじっと聞いてくれ、時折「うん、うん」と相槌を打ってくれました。話し終えると、彼女はそっと私の手を取り、言いました。「結衣、その犬が唸ったのは、君が嫌いだからじゃないんだ。ただ、『もうちょっと距離を取ってほしい』って、犬なりのメッセージを送っていただけだよ。犬はね、言葉を話せないから、体の動きや声で一生懸命伝えようとしてるんだ」
アヤカは、私に犬の「カーミングシグナル」について教えてくれました。目をそらす、あくびをする、鼻を舐める、体を震わせる、しっぽを股の間に挟む…これらは全て、犬が「不安」「緊張」「困惑」を感じているサインだというのです。そして、私が無意識にしていた「じっと見つめる」「上から手を伸ばす」「急に近づく」といった行動が、犬にとっては「脅威」に感じられる可能性があると指摘しました。
「犬に好かれるオーラって、特別な魔法じゃないんだよ。犬の気持ちを理解して、彼らが安心できる接し方をすること。それが、本当の『犬に好かれるオーラ』なんだ」
アヤカの言葉は、私の心を深く揺さぶりました。私は、今まで自分の「大好き」を押し付けていただけだったのかもしれない。犬の視点に立って、彼らの気持ちを理解しようと努力することこそが、本当に大切なことだと気づかされたのです。その日から、私はアヤカに教わったことを実践し始めました。最初は戸惑うこともありましたが、少しずつ、犬たちの反応が変わっていくのを肌で感じられるようになりました。
ドッグトレーナーの友人が語る「犬が本当に喜ぶ接し方」
アヤカは、犬とのコミュニケーションの基本は「犬の選択を尊重すること」だと言います。私たちが「可愛い」と思う行動が、必ずしも犬にとって嬉しいとは限らないのです。アヤカから教わった、犬が本当に喜ぶ接し方のポイントは以下の通りです。
1. 犬のボディランゲージを読み解く
「犬は、あくびをしたり、目をそらしたり、鼻をペロっと舐めたりするでしょ？あれはね、全部『ちょっと緊張してるよ』とか『落ち着きたいな』っていうサインなんだ。これを『カーミングシグナル』って言うんだけど、このサインを見逃さないで、犬の気持ちを察してあげることが大切なんだよ」
2. 犬からのアプローチを待つ
「初めて会う犬には、いきなり近づかないこと。まずは少し離れたところで、犬がこちらに気づくのを待つんだ。犬がこちらに興味を示して、近づいてきたり、目を合わせてくれたりしたら、ゆっくりと優しく声をかけてあげてね。もし、犬が警戒しているようなら、無理に近づかずに、その場を離れてあげることが、犬への最大の敬意なんだ」
3. 穏やかな声と行動を心がける
「高い声で興奮して話しかけたり、急な動きをしたりすると、犬はびっくりしちゃうことがある。低い、落ち着いた声で話しかけたり、ゆっくりと動いたりすると、犬は安心しやすいんだよ」
4. 目線は合わせすぎず、斜め下を見る
「犬にとって、目をじっと見つめるのは威嚇のサインになることがあるんだ。だから、犬と目を合わせるときは、少しだけ斜め下を見るようにして、アイコンタクトも短くね。それから、かがんで犬と同じ目線になるのも、犬に安心感を与えるポイントだよ」
5. 触れるときは「犬が心地よい場所」から
「頭の上から触られるのを嫌がる犬は多いんだ。犬が触られて喜ぶのは、顎の下や胸、肩のあたりが多いかな。手のひらを上にして、ゆっくりと差し出して、犬が匂いを嗅いでくれたら、優しく撫でてあげてね。嫌がったらすぐにやめること。これが一番大事だよ」
アヤカは続けます。「犬との関係は、信頼という名の貯金箱。一度にたくさん入れようとするのではなく、毎日少しずつ、彼らが安心できる行動を積み重ねていくことが大切なんだ。そうすれば、自然と犬の方から心を開いてくれるようになるよ」
今日から実践！犬に好かれるための3ステップ
アヤカのアドバイスを受け、私が実践し、効果を実感した具体的なステップをご紹介します。これは、特別な能力ではなく、誰でも今日から始められる「信頼のスキル」です。
ステップ1：まずは「観察」から。犬のボディランゲージを学ぼう
犬と出会ったら、まずはこちらから積極的にアプローチするのではなく、犬の様子をじっくり観察することから始めましょう。目をそらしているか、しっぽを振っているか（どの高さで、どんな速さで？）、耳の向きはどうか、口元は緩んでいるか、あくびをしていないか…など、犬が発しているサインを注意深く読み取ります。スマホで「犬 カーミングシグナル」と検索すれば、たくさんの情報が出てきます。まずは知識として知ることから始めてみてください。
- 実践のコツ: 公園やカフェなどで、少し離れた場所から犬を観察する練習をしてみましょう。どんな時にどんなサインを出しているのか、パターンが見えてくるはずです。
- 注意点: 観察中も、犬にプレッシャーを与えないよう、じっと見つめたりせず、自然な視線を心がけてください。
ステップ2：犬からの「OKサイン」を待つ
犬があなたに近づいてきたり、目を合わせてくれたり、しっぽをゆっくり振ってくれたり…といった「OKサイン」を出してくれるまで、焦らず待ちましょう。もし、犬が警戒しているようなら、無理に距離を縮めようとせず、そっとその場を離れる勇気も必要です。これは、犬の選択を尊重し、信頼を築くための重要な第一歩です。
- 実践のコツ: 犬と出会ったら、まずは少し離れた場所で立ち止まり、体をやや斜めに向け、犬の顔から少し目線を外します。犬があなたに興味を示したら、ゆっくりと、低い声で「こんにちは」と声をかけてみましょう。
- 注意点: 犬が「もうちょっと距離が欲しい」というサイン（目をそらす、あくびなど）を出しているのに、無理に近づくと、信頼関係を損ねてしまいます。
ステップ3：安心と優しさを「五感」で伝える
犬があなたに近づいてきてくれたら、次はあなたの「安心感」と「優しさ」を五感で伝えます。声のトーン、体の動き、触れ方…全てが犬にとって心地よいものであるように意識します。
- 声: 高すぎず、落ち着いた優しい声で話しかけます。ゆっくりと、途切れ途切れに話すのも効果的です。
- 動き: 急な動きは避け、ゆっくりとした動作を心がけます。かがんで犬と同じ目線になることで、威圧感をなくします。
- 触れ方: 犬が匂いを嗅いでくれたら、手のひらを上にして、顎の下や胸、肩など、犬が触られて嫌がらない場所から優しく撫でてみましょう。力加減は優しく、犬の反応を見ながら行います。もし犬が嫌がるようなら、すぐに手を引いてください。
これらのステップを実践することで、私は少しずつ、犬たちとの心の距離を縮めることができました。以前のように唸られることはほとんどなくなり、多くの犬たちが私に安心して近づいてくれるようになったのです。あの時のゴールデンレトリバーとも、今では遠くからアイコンタクトを交わし、尻尾を振ってくれるようになりました。私の心も、以前のような自己嫌悪から解放され、犬たちとの出会いを純粋に楽しめるようになりました。
犬との関係性を劇的に変えるビフォー・アフター
私がアヤカのアドバイスを実践する前と後で、犬との関係性がどのように変化したか、比較してみましょう。
| 項目 | ビフォー（実践前） | アフター（実践後） |
|---|---|---|
| 犬への接し方 | 興奮して急接近、高い声で話しかける、目をじっと見る | 落ち着いた態度、犬からのアプローチを待つ、目線を外す |
| 犬の反応 | 飼い主の後ろに隠れる、唸る、警戒する、逃げる | 警戒が解ける、自ら近づいてくる、尻尾を振る、体を寄せる |
| 私の感情 | 悲しい、自己嫌悪、不安、無力感 | 喜び、安心、自信、幸福感、癒し |
| 得られたもの | 犬との心の壁、コミュニケーション不全 | 犬との信頼関係、深い絆、穏やかな時間 |
この変化は、私にとって本当に大きな喜びでした。犬に好かれるオーラは、特別な才能ではなく、彼らの言葉を理解し、尊重する「スキル」だったのです。そして、このスキルは、誰でも身につけることができます。
「なつかない犬」に関するよくある質問
Q1: 犬に近づいても良いタイミングがわかりません。
A1: ドッグトレーナーのアヤカによると、「犬が自らあなたに近づいてきたり、体をやや斜めにしてあなたの方を見ていたり、尻尾をゆっくり振っていたりする時が、興味を示しているサインです。急いで近づかず、犬のペースを尊重しましょう。犬が目をそらしたり、あくびをしたりしている場合は、まだ距離が欲しいというサインなので、無理強いは禁物です。」
Q2: どんなに努力しても、どうしても嫌われてしまう犬がいます。諦めるべきでしょうか？
A2: 全ての犬に好かれる必要はありません。犬にも性格があり、人見知りな子もいれば、特定のタイプの人を苦手とする子もいます。アヤカは「犬との相性もありますから、無理に仲良くなろうとしすぎる必要はありません。犬が嫌がっているサインを出したら、潔く引き下がることが、犬への最大の思いやりです。それもまた、信頼を築く一歩ですよ」と教えてくれました。
Q3: 犬に触るのが怖いのですが、どうすれば良いですか？
A3: まずは触ることを目的とせず、犬の観察から始めてみましょう。アヤカも「無理に触れ合おうとせず、まずは犬の習性や感情を理解することから始めてください。犬が安心して過ごせる距離で、穏やかに見守るだけでも、犬はあなたの存在を認識し、安心感を覚えることがあります」と話していました。信頼できるドッグトレーナーに相談し、安全な環境で触れ合い方を学ぶのも良い方法です。
Q4: 犬の飼い主さんとのコミュニケーションも苦手です。
A4: 飼い主さんとのコミュニケーションも、犬との関係を築く上で大切です。まずは「可愛いですね」と穏やかに声をかけることから始めてみましょう。犬に触れたい場合は、必ず飼い主さんに「触ってもいいですか？」と尋ねるのがマナーです。飼い主さんとの良好な関係は、犬との距離を縮める手助けにもなります。
あなたの「大好き」を、犬の「大好き」に変える旅に出よう
犬が大好きで、心を通わせたいと願うあなたの気持ちは、決して間違っていません。ただ、その「大好き」の伝え方が、少しだけ犬の言葉とズレていたのかもしれません。私もかつて、そのズレに悩み、深く落ち込んだ一人です。
しかし、ドッグトレーナーの友人アヤカとの出会い、そして犬の行動心理を学ぶことで、私の世界は大きく変わりました。犬に好かれるオーラは、特別な魔法ではなく、犬の気持ちを理解し、尊重する「信頼のスキル」だったのです。それは、まるで繊細な植物を育てるよう。水や肥料を与えすぎてもダメで、その植物の特性を理解し、適切な環境を整えることが重要です。
今日から、あなたの「大好き」を、犬が本当に喜ぶ形で伝えてみませんか？ 犬のボディランゲージを学び、彼らの選択を尊重し、穏やかな心で接すること。このシンプルなステップが、あなたと犬との間に、かけがえのない絆を築き、あなたの日常を、より豊かなものに変えてくれるはずです。さあ、あなたの「大好き」を犬の「大好き」に変える、新しい旅に出かけましょう。
この記事を書いた人
桜井 結衣 | 38歳 | 動物行動学に基づいたペットとの共生関係、心のケアに関するwebライター
幼い頃から犬猫に囲まれて育ち、動物との触れ合いが人生の喜び。特に犬の魅力に深く魅せられ、現在は動物行動学やドッグトレーニングに関する知識を独学で探求中。散歩中にすれ違う犬たちに心の中で話しかけるのが日課。かつては犬に避けられ、そのたびに「私、何か変なことしてる？」と落ち込む日々を送っていたが、ドッグトレーナーの友人との出会いをきっかけに、犬とのコミュニケーションの奥深さに目覚める。現在は、犬と人とのより良い関係を築くためのヒントを、自身の体験談を交えながら発信している。
